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東京高等裁判所 昭和49年(ネ)670号 判決

控訴人 関東鉄道株式会社

右代表者代表取締役 福田郁次郎

控訴人 横田三行

右両名訴訟代理人弁護士 神田五郎

貝塚次郎

被控訴人 有限会社柴田組

右代表者代表取締役 柴田充啓

主文

一、原判決を取り消す。

二、被控訴人は、控訴人関東鉄道株式会社に対し、金五七万三三九〇円及びこれに対する昭和四六年四月一七日から完済まで年五分の割合による金員の支払をせよ。

三、被控訴人は、控訴人横田三行に対し、金三五万五三〇〇円及びこれに対する昭和四六年四月一七日から完済まで年五分の割合による金員の支払をせよ。

四、訴訟費用は第一・二審とも被控訴人の負担とする。

五、この判決は、主文第二、三項につき仮に執行することができる。

事実

控訴代理人は、主文第一ないし四項と同旨の判決及び仮執行の宣言を求めた。

当事者双方の主張及び証拠関係は、次に附加するほか、原判決の事実摘示と同一(ただし、原判決四枚目表二行目に「桜井茂が」とあるのを「桜井茂は、」と、同裏八行目に「被告会社に」とあるのを「被告会社への」と、同一〇行目に「認めていること。」とあるのを「認めていることに照らし、被告は、右事故につき民法第七一五条の責任を免れない。」と、それぞれ改める。)であるから、これを引用する。

(控訴人らの主張)

一、本件事故当時、加害車荷台の両側及び後部には、「有限会社柴田組」と明記されており、同車には被控訴会社の従業員四名が乗っていた。そして、事故が発生したのは午後九時三五分ごろであるけれども、土建業者が夜間作業を行なうことは珍らしくないのであり、また、桜井茂は、当時無免許であったが、被控訴会社の所有する自動車をたびたび運転していた。

これらの事情によれば、事故当時における加害車の運行は、被控訴会社の業務執行のためにする外形を有するから、同会社は、民法第七一五条による責任を免れない。

二、仮に、右主張が認められないとしても、被控訴会社代表者柴田充啓は、事故当夜控訴会社の波崎出張所長である小島元太郎及び控訴人横田に対し、本件事故による桜井の損害賠償義務を重畳的に引き受けることを約した。

(証拠)≪省略≫

理由

一、控訴会社の従業員である桜井茂が、控訴人ら主張の日時場所で加害車を運転中、控訴人ら主張のような事故を発生させた事実は、当事者間に争いがなく、≪証拠省略≫を総合すれば、桜井は、昭和四五年八月の中旬土木建築請負業を営む被控訴会社にブロック工として雇われ、自動車の運転免許を有しないが、練習のため、勤務時間外に会社の附近で会社の自動車をたびたび運転しており、事故以前に本件加害車を何度も運転していること、桜井は、同年九月一〇日の夕方被控訴会社の仕事を終り、同社事務所の隣りにある間借先で、同社の従業員である相良ほか二名とともに飲酒の上、他の場所へ飲みに行くことに意見がまとまり、相良が運転して右間借先の庭に置いてあった加害車を桜井が運転し、他の三名をこれに乗せて近所の食堂に行ったこと、右四名は、同所で飲酒の上さらに銚子へ飲みに行くこととし、前同様桜井が他の三名を乗せて加害車を運転中に本件事故を発生させたこと、当時、加害車荷台の両側及び後部には、いずれも「有限会社柴田組」と明記されており、前記同乗者三名のうち二名は自動車の運転免許を有し、一名は無免許であったが自動車を運転する技術は心得ていたこと、被控訴会社の所有自動車に対する勤務時間外の保管状態は放任的であり、従業員が自由に自動車を持ち出せる状況にあったことが認められ、この認定を動かすに足りる証拠はない。

右認定事実によれば、本件事故当夜における加害車の運行は、被控訴会社の運転業務に従事していない桜井が、勤務時間外に、私用を弁するためになしたものであるから、会社業務の適正な執行行為には該らないというべきである。しかし、民法第七一五条にいう「事業ノ執行ニ付キ」とは、必ずしも被用者がその担当する業務を適正に執行する場合だけを指すのではなく、広く被用者の行為を外形的に捉えて客観的に観察したとき、使用者の事業の態様等からして、それが被用者の職務行為の範囲内に属するものと認められる場合であれば足りると解すべきである(最高裁判所判決昭和三七年一一月八日言渡・民集一六巻一一号二二五五頁及び昭和三九年二月四日言渡・民集一八巻二号二五二頁参照)ところ、前認定のとおり、桜井は、練習のため、被控訴会社の附近で会社所有の自動車(加害車を含む)をしばしば運転しており、事故当夜には、会社の同僚三人(そのうち二人は運転免許の取得者である。)を加害車に乗せて運転中本件事故を起したのであり、他方、被控訴会社は、土建業を営む有限会社で、所有自動車の勤務時間外における保管が不良のため、従業員がこれを自由に持ち出せる状況にあったのであるから、右事故は、被控訴会社の事業の執行について生じたものと解するのが相当である。

したがって、被控訴人は、民法第七一五条の規定に基き、控訴人らに対し、本件事故による損害を賠償する義務を有する。

二、そこで、損害額につき判断すると、≪証拠省略≫によれば、本件事故の結果、控訴会社は、破損された事務所の建物及びその中にあったワンマンバス用機器の修理費として合計五七万三三九〇円を支出し、また、破損された控訴人横田所有の小型乗用車を修理するためには、合計三五万五三〇〇円を要することが認められる。

三、以上の次第で、被控訴人は、本件事故による損害賠償として、控訴会社に対し五七万三三九〇円、控訴人横田に対し三五万五三〇〇円及び右両名に対し右金員に対する訴状送達の翌日である昭和四六年四月一七日以降完済まで年五分の割合による遅延損害金を支払う義務を有することとなるから、その他の点につき判断するまでもなく、控訴人らの本訴請求は理由がある。

よって、右請求を棄却した原判決は不当であるから、これを取り消した上、控訴人らの請求を認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条、第八九条、仮執行の宣言につき同法第一九六条第一項の各規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 渡辺一雄 裁判官 宍戸清七 大前和俊)

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